セラピストにむけた情報発信



身体運動が知覚認知にもたらす影響を知るための本



2009年1月27日

12月に発刊されました拙著『身体運動学−知覚・認知からのメッセージ』における主たるメッセージは,「知覚認知と身体運動の間には不可分な関係が存在する」というものでした.

”不可分な関係”とは,言い換えれば,”相方向的な関係”となります.すなわち,知覚認知と身体運動とが相互に影響しあうという意味です.拙著は,この双方向性のうち特に前者の,「知覚認知が身体運動を影響を与える」という側面にウェイトをおいた構成となっております.その背景には,高度に専門的な運動学的知識をもつセラピストの皆様に,知覚認知の知識をわかりやすく伝えたいから,という意図がありました.

今回のページは,拙著では十分に伝えられなかった「身体運動(あるいは身体)が知覚認知に影響を与える」ことを理解するために役に立つ本をご紹介します.ご紹介したい本は数多くありますが,今回は拙著で引用できなかった本として,以下の2つをご紹介します.

下條信輔 「サブリミナルインパクト」 ちくま書房,2008

言語,音楽,流行,広告,政治など,世の中の様々な問題について,情動と潜在認知という,認知科学における古くて新しい2つのキーワードをもとに概観しています.この本の中では,私たちの意識的・理性的判断が働く前に,身体の生理・行動的反応が先行していること,そしてこの身体反応が意識的・理性的判断と不可分な関係にあることをわかりやすく示しています.


西平賀昭ら(編) 「運動と高次神経機能−運動の脳内機能を探検する−」杏林書院,2005

運動生理学の観点から身体運動の神経機構について,専門的・体系的にまとめた本です.私たちの研究室のボスである今中國泰先生も,著者の一人です.長期的に運動を継続することで,認知機能を反映する脳波成分に良い変化が現れるといった成果が紹介されています.


「身体運動が知覚認知を変える」ことを知れば知るほど,理学療法や作業療法を通して患者さんの身体や行為に介入していくことが,そのセラピーの直接的な目的であるかないかに関わらず,患者さんの認知機能にもポジティブな影響を与えうるということを実感できます.また何かの機会に多くの研究成果をまとめて皆様にご紹介できればと思っています.


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